- 高齢者の健康
高齢者の健康づくり
フレイル予防<入門編>
全国的に65歳以上の高齢者が増えており、福島県内も約3人に1人は高齢者です。
加齢とともに、からだは衰えていくものではありますが、 できることなら、いつまでも自分らしく長生きしたいですよね。
でも、一度要支援や要介護になると、なかなか戻るのは難しいと言われています。
そこで、近年、重要視されているのが「フレイル」。英語で「もろさ」や「はかなさ」など虚弱さを表す言葉です。要支援・要介護の一歩手前で食い止めるために、「フレイル予防」をキーワードに、私たちが心がけるべき点について、福島県立医科大学の公衆衛生学講座の安村誠司先生に伺いました。
1 そもそも健康とは?
―福島県に暮らす高齢者はどのような健康状態ですか?
まず「健康」という言葉は、若者と65歳以上の高齢者とでは意味が違います。若い世代にとっては病気でないことが「健康」ですが、高齢者では「自立して生活できること」が「健康」です。高齢者は多くの方が何らかの病気を持っていますから、その有無でなく、自立した生活ができるかが「健康」の基準となっています。
それを踏まえて福島県の現状を見ると、平均寿命、健康寿命とも、全国平均と比べてやや低い状況にあります。平均寿命が短いということは死亡率が高いということ。今日では乳幼児で亡くなる方は極めて少なく国内のどの地域でもその影響は限られており、中高年で少し早く亡くなる方が多いということです。一方、健康寿命が短いということは、自立して生活できる期間が短いということ。福島県の高齢者は、誰かに支援・介護してもらわないと生活できない状況が全国平均と比べてやや早く訪れていることを表しています。
福島県民の健康指標について、詳しくはコチラ!
2 フレイルとは
―そうした中で、大切なこととはどのようなことですか?
きっと私たちのほとんどはただ長生きしたいのではなく、自分らしく健康的に長生きしたいのだと思います。ですから、高齢者にとっての健康を意味する、自立して生活できる能力を保つことが大切です。
といっても、元気な人がいきなり要介護になることは滅多にありません。何らかの理由で徐々に介護が必要な状態になっていきます。健康づくりの基本は栄養、運動、休養です。これらのいずれかが適切でない場合に、要支援・要介護になっていきます。まず働き盛りの若い方は、生活習慣病にならないように、バランスのとれた食事と適度な運動、十分な睡眠を心がけてください。将来、自立して生活できる期間を延ばすことにつながります。
また、高齢者の方に意識していただきたいのが「フレイル予防」です。私たちは加齢とともにさまざまな能力が衰え、ストレスへの対応能力が低下していきます。それが虚弱、いわゆるフレイルです。特定の慢性の疾病がなく、日常生活に支障のない健常な状態と、要支援の間の状態を表します。目安となる判定基準があるのでチェックしてみましょう。フレイルには身体的、精神・心理的、社会的の3つがあり、それらを意識して行動することが予防には大切です。
3 身体的なフレイルを予防する
―フレイルを予防するために、どのような行動をとればいいのですか?
みなさんがいちばん気にするのは身体的なことかもしれません。それは適度な運動を習慣化することがフレイル予防になります。車椅子が必要になったり、寝たきりになったりするのは歩けなくなるからです。歩くことを生活の基本において、高齢者では男性7000歩、女性6000歩を目安に続けましょう。コロナ禍の影響で、自宅で過ごす時間が増えています。スクワット(直立した状態から膝の屈伸を繰り返す運動)で足腰に適度な負荷をかけるのは大変有効です。ただ、いきなりやりすぎてかえって痛めないように注意しましょう。また、バランスのよい食生活も身体的なフレイル予防には不可欠です。高齢になるにつれて、食べられる量は変わってきますが、ご飯などの炭水化物は減らしても、肉や魚などの動物性たんぱく質はしっかり食べてください。
4 精神・心理的、社会的なフレイルを予防する
―精神・心理的、社会的なフレイルとはどのようなものですか。
私たちは、社会で生きていく時、仕事や生活の中でいろんな役割をもっています。それが定年を迎えたり、からだが衰えたりして、地域での交流も減少し、一定の距離を持つことになると、これまであった地域や家庭での役割がなくなってしまいます。これが社会的なフレイルです。すると、自分は何のために生きているのだろうと生きる意味や生きがいを見失ってしまうことがあるのです。これは精神的に極めて不健康であり、精神・心理的なフレイルな状態です。社会の中で役割を持つとは社会に貢献することであり、期待されているということでもあります。ですから、社会に対して自分が役割を持って対応できるということが、生きる意味、生きがいにつながります。
社会参加というと、その表現自体に地域という印象がありますが、社会のいちばん小さい単位は家です。新しいことを何か始めるというより、まずは身近な家庭で役割を持ちましょう。買い物や料理、掃除、洗濯など、どんなことでもいいのです。その有りようが結果として、精神・心理的にも、社会的にも、そして、身体的にもフレイル予防になっていきます。
このようにフレイルに特効薬はありません。生活習慣病の予防を心がけながら、加齢とともに失われがちな役割を家の中から見出して、少しずつ地域へと行動範囲を広げていってください。フレイル予防に遅すぎることはありません。気がついた今から始めましょう。
5 さいごに
健康の意味を見直し、高齢者の健康づくりについて、フレイル予防をキーワードにお話してくださった安村先生、ありがとうございました。
病気の有無でなく、自立した生活ができるかどうかが高齢者にとっての健康の基準。それを念頭に置いて、身近な家庭の中から役割を持ち、毎日を充実させていく。その先に健康長寿が待っていることを示してくださいました。みなさんも自分の役割について改めて考えながら、ぜひ行動していってください。