高齢者の健康づくり

フレイル予防<実践編>

年を取って心身のはたらきや社会とのつながりが弱くなった状態をさす「フレイル」。そのまま放置して要介護状態となってしまうことを防ぎ、元気に活動するための心身を保つ取り組みを「フレイル予防」といいます。
フレイル予防の基礎知識はコチラ!

〈プロフィール〉岡崎可奈子先生
福島県立医科大学 助教。放射線医学県民健康管理センター所属、認定理学療法士(健康増進、代謝分野)、日本糖尿病療養指導士、健康運動指導士、サルコペニア・フレイル指導士。生活習慣病予防、フレイル予防、健康増進のための運動指導・啓発を県内各地で行っている。

日常生活の中でどんなことに気を付ければいいの?
「フレイル予防」に効果的な取り組みってどういうもの?
そんな疑問に答えてくださったのは、福島県立医科大学 助教の岡崎可奈子先生。運動と食事の深い関係から具体的な運動のアイデアまで、フレイル予防習慣につながる実践的な知識やポイントを紹介していただきました。

1 運動だけではNG?気を付けたいのは「フレイルの悪循環」

ー運動を頑張ればフレイル予防になる、というわけではないのでしょうか?

運動はもちろん大切ですが、それだけでは十分とは言えません。フレイル予防の3つのポイントは「食事」「運動」「社会参加」。たんぱく質を中心にバランスの取れた「食事」、日常生活で継続できる適度な「運動」、人とつながり生き生きとした気持ちを維持する「社会参加」は密接に関わり合っています。

加齢や運動不足などで体力が衰えてくると、疲れやすくなり、活動量が少なくなります。動く量が少なくなれば食欲も低下して、十分な栄養がとれなくなってしまいます。しっかり食べないと動く元気が出ず、外出や人と会うことがおっくうになりますよね。家に閉じこもりがちになるとさらに体力や筋力が衰えてしまいますし、エネルギーが消費されないので食欲もわきにくくなります。そうしてまた十分な栄養を摂らずに過ごして、ますます元気がなくなる…。
というように、「食事」「運動」「社会参加」のバランスが崩れるとどんどん状態が悪化していく「フレイルの悪循環」に陥ってしまうのです。
運動だけ頑張ろうとしても、かえって疲れてしまったり、食欲がわかず栄養不足になってしまったりしては本末転倒。フレイルの悪循環に足を踏み入れないように、また悪循環を断ち切れるように、3つのポイントのバランスを考えながら生活を改善していきたいものです。

2 日常生活でのフレイル予防のポイント

ー悪循環を避けるために、どんなことに気を付けるとよいでしょうか?

これまでの生活習慣を振り返って、無理なく改善していけるところを見つけましょう。

朝ごはんは、しっかり食べていますか?朝・昼・夕のうち夕食の量が最も多いというご家庭は多いと思いますが、実は「前日の夕食の量が多くて、朝はお腹が空いていない」というケースがありがちです。また代謝を促し疲労を回復するには、良質の睡眠をとることも大切。夕食は睡眠を妨げないように「遅すぎず、食べすぎない」ことを心がけましょう。起きた時にお腹が空いているくらいの方が、朝食をおいしく食べられ、1日を元気にスタートさせるスイッチになるはずです。
また、運動習慣のない方が突然負荷の高い運動をした場合、心臓発作やケガのリスクが高まります。ストレッチや体操など気軽にできるものでよいので、まずは毎日続けられそうな、自分にちょうどよい方法をみつけましょう。

3 運動習慣ごとのオススメ運動

ーフレイル予防にオススメの運動を教えてください。

体力や運動習慣によって、オススメの運動も異なります。
今回は高齢の方向けに「運動習慣のある方」「運動習慣を付けたい方」「運動がどうしてもおっくうな方」3つのパターンでそれぞれに応じた効果的な運動をご紹介します。

〇運動習慣のある方

ふだんから意識してウオーキングをしているなど、よく体を動かしている人には「インターバル速歩」がオススメです。 インターバル速歩とは、「ゆっくり歩く時間」と「速く歩く時間」を交互に3分間ずつ行うウオーキング方法。速歩きは少し息が上がるくらいの速度で行います。ふつうに歩くよりも短時間で負荷が高まり、筋力や持久力の向上につながります。
いつものウオーキングの時間を「インターバル速歩」に変えるだけで、30分のウオーキングなら「インターバル速歩」を15分行うことになり、十分効果的です。

〇運動習慣を付けたい方

これから何か運動を始めたいけれど、続けられるか心配…と思っている方には、なんといっても「ラジオ体操」がオススメです。ラジオ体操は全身の筋肉を左右対称にまんべんなく動かす、優れた運動方法なのです。
最近では健康維持だけでなく、美容効果もあると注目されています。ラジオ体操は不思議と、音楽が始まれば体が勝手に動いてしまいますよね。新たに覚える必要もないので、習慣として取り入れやすいのではないでしょうか。
「ラジオ体操習慣」のコツは、朝に行うこと。準備体操効果で寝起きの体を覚めさせるスイッチになって、一日を生き生きと過ごせるようになります。

〇運動がどうしてもおっくうな方

歯みがき中や洗い物中など、毎日の生活の中で「片足立ち」に挑戦してみませんか?
筋力が衰えて転倒や骨折を起こしやすい高齢の方にとって、筋力アップだけでなく、骨を強くする効果が期待できます。1分間の片足立ちは約53分間の歩行と同等の効果があるといわれています。
床に着かない程度に片足を上げ、1分間キープします。1日3回で結構です。つかまり立ちでも構いません。
生活の一部で「ながら片足立ち」を始めるところから運動習慣をスタートしてみましょう。

4 食事は「たんぱく質」を意識して

ー食事のとり方のコツはありますか?

3食しっかり、栄養バランスを考えてとることが基本です。特に意識していただきたいのは「たんぱく質」をとることです。
たんぱく質は筋肉の材料なのですが、実は加齢とともに筋たんぱく質を合成する能力が低下してしまうので、高齢の方はより意識的に食事に取り入れましょう。一度にたくさんとるのではなく、1日の中でまんべんなくとることが大切です。若い世代では運動の直後が効果的ですが、高齢の方は消化が遅くなるため普段の食事で常に補っておくことをオススメします。

福島県が作成したパンフレット「今から始めるフレイル予防~食事編~」にはたんぱく質と他の食品を組み合わせた食事例が詳しくまとまっているので、気になる方はチェックしてみましょう。
「今から始めるフレイル予防~食事編~」はコチラ!

5 さいごに

「フレイルの悪循環」の危険性と具体的な対策についてお話してくださった岡崎先生、ありがとうございました。
高齢者のフレイル状態は、これまで「もう歳だから…」で片づけられてしまっていました。最近では高齢になってもトレーニング効果があることがわかっています。ここまで維持してきた健康を手放さず、いつまでも生き生きと過ごすために、無理せず続けられるところから「フレイル予防」に取り組みましょう。